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五行連載・その一 |
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月のきれいな夜だった。 窓から見あげた空は、都会のイルミネーションが光り輝き、月しか見えなかった。 けれど、満月に近い月は、人工的な光に埋もれることなく、煌々と空を地上を照らしていた。 「何ものにも影響されない。まるでライトくんそのものですよね」 「唯一姿を隠される、雲はお前だと言って欲しいのか、竜崎」 「ライトくんは私に隠されたいのですか?」 竜崎が、表情を変えずに、真っ直ぐにライトを見ると、穏やかな微笑みを浮かべている。 「僕は月じゃないよ。月の名を持つ、ただの人間だ。影響されることもある」 ソファに座っていたライトは、窓辺へと移動し、竜崎の隣りに並んだ。 見あげた空には、雲ひとつなかった。 「それでも私には、ライトくんがあの月のように見えます」 「どうして?」 「ひとりでがんばっているからです」 「・・・」 「違いますか?」 「竜崎には、そう見えるのか?」 ライトは笑顔のまま、竜崎のほうを向いた。 月明かりに照らされて、端整な顔立ちの陰影が美しく浮かび上がる。 一人ではないと、言いたい思いがその表情にあらわれているかのように、瞳が揺れた。 「はい」 否定することなく、頷いた。 その瞬間、ライトから感情が消えたように見えた。 「一人だけでがんばったってできないことばかりだよ。現に僕だって、竜崎が作り上げたこの捜査本部に来ることを許されなければ、こんな風にキラを追うことさえ、できなかった。そう思えば、僕は無力だ。ひとりでがんばるには、限界がある。そうは思わないか?」 穏やかに笑ったまま、竜崎を責めることもなく、言葉を選びながら、自分の意見を述べる。 相手の意見を聞ける心の広さは、きっと父親譲りなのだろう。 それでも、自分が正しいと思ったことは譲らない頑固さもしっかり受け継いでいる。 「確かに、一人でできることには限りがあります。その限られた中で、ライトくんはできること以上をやろうとしているように見えます」 常に適温に保たれているはずの室内が、やけに暑く感じて、ライトは竜崎から目をそらす。 青白く照らされた窓辺で、二人の距離はずっと遠く離れているように思えた。 「できないことが、もどかしいんだ」 本当は、できるはずなのに。 本当は、できないわけがないのに。 現実は、目の前に立ちふさがる。 例えば、Lのように。 ライトは自分の考えを打ち消すように、もう一度窓の外の月を見上げた。 「できることからやり遂げれば、次に続きます。ライトくんにならできるでしょう」 淡々と、抑揚のない話し方は、時々、真っ直ぐ響き渡る。 本当に、こんな出会いでなければ、二人の関係は、もっと違っていたのかもしれない。 「できるかな?」 「できます」 それこそ、竜崎の本心がどこにあるのか見えないというのに。 信じたくなってしまう気持ちを押し殺して、ライトは笑った。 「Lに断言されたら、そうせざるを得なくなってしまう気がするね」 笑顔で突き放して、ライトは心の動揺を隠した。 「無理強いはしません」 急にライトが壁を作ったことに気がついた竜崎は、自分が言ったなにがライトの気に障ったのかを考えた。 いつもLに対して尊敬の念を抱いているように見せておいて、本当はきっと別の視点で別の何かを見ているのではないかと疑い続けてはいた。 時折、どこまで疑うべきかを迷うほど、真っ直ぐに向けられた視線に惑わされる。 「無理強いされても無理なときは無理だけどね」 休憩は終わりにしよう、そう言ってライトは作業途中のテーブルへと戻っていく。 そんな背中を見送って、竜崎は再び天上の月を見上げた。 青白く、夜の闇を照らし、暗がりに隠れているもの、隠されているものを暴く。 (本当に、ライトくんそのものです) 本音は声に変えず、心内に秘めた。 終 |
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19.2.2〜2.16 |
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1回につき5行ずつ書いていくという、 |
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