白昼夢

 
     
 

暗闇の中に浮かぶのは真紅。
流れ落ちる鮮やかな朱色の液体。
そこに居るのは誰?
一筋の光もないこの空間に、純白のシャツだけが存在している。
その均整の取れた長身に見覚えがある。

紅い液体は彼の方から流れていた。

彼の両手が抱えていたものは、私の首だった・・・。

彼は目を閉じている私の口唇にキスをした。
あたたかくて柔らかい。

感触が残った。

遠くで、海鳴りが聞こえる。


Lが目を開けると、目の前でテレビが灰色の画面と耳障りな雑音を垂れ流していた。
海鳴りが聞こえたのはこれが原因だったらしい。


(寝ていたのか?)


膝を抱えるように座ったままの形を崩すことなく、眠るのはいつものことだ。しかもこの椅子はことのほか座り心地がいい。
しかし、キラに関する資料のビデオを見ている途中で意識を失ったのは、初めてだった。
蓄積された疲労を目の当たりにして、Lは溜息を吐く。


(時間が足りない)


次々と新たな事象が起きているというのに、まだなにも打つ手がないというのは、精神的な負担を伴う。
Lはビデオのリモコンをつかみ、巻き戻しを押した。


今日は夜神月が、都内のホテルを点々とする捜査本部にやってくる日だ。
毎日ではないのは、大学との両立を考慮しての事だというのが、表向きの理由だ。実際は月がいることによって、偽名を使用せざるを得ない状況から発生する捜査員の精神的負担の軽減だ。
三日振りに訪れた月は、いつもとなんら変わりはなく、他の人間がいるからか、顔色が悪いよとLに向かって穏やかな笑みを浮かべた。
そんな月と対面して、Lはその衝動を堪えることができなかった。


「竜崎、どうし・・・」


Lは無言のまま月の腕を掴み、寝室に向かう。
突然のことだったからか、月も抵抗できないまま引きずられるように、Lと寝室に入る。
内側から鍵を掛け、明かりもつけないまま、Lは月の腕を放した。
遮光カーテンが閉じたままの室内は、昼間だというのに夜闇のようだ。


「何?」


月はLの不可解な行動には慣れているとでも言いたげに、そのことについては責めなかった。
慣れているというより、興味がないのだ。
ただ、理由だけを簡潔に問う。
本当はその理由さえも月には興味のないことだと、Lにもわかっている。
そうしておいた方が、お互いに都合がいいだけなのだ。


「キスしてもいいですか?」


夢の中で、自分は頭部だけを残していた。
生きているはずもないのに、あのリアルな感触は一体なんだったのか。
まだ、生々しく覚えている。


「珍しく殊勝だな。いつもなら問答無用のくせに」


月が微笑う。


「いつも断りなく無理強いをすると怒るのは誰ですか。おかげで私の口唇には噛み傷ばかりです」


Lは自分の口唇を指で撫でた。


「・・・、竜崎が何に傷ついているのかは興味ないけど、同情してやるよ」


隠そうとしていたわけではないが、誰も気が付かなかったというのに、月はひと目で見抜いたのか。
これもまた彼の持つ天賦の才か。
天は一体いくつ彼に物を与えているのだろう。

Lの手を握り、月が口唇を重ねる。

触れたあたたかさは、同じ・・・ではなかった。

現実の月はもっと熱い。


主導権を握れたのが嬉しかったのか、月はLから離れると、満足そうに笑い口唇の端を舐めた。

「挑発しているのですか?」
「まさか。竜崎はたったこれだけで挑発されるのか?」
「月くんは特別ですから」

正直に答えると、月は明白に嫌な表情をする。

「残念ですが・・・」

Lはくるりと月に背を向けた。

「これから捜査本部会議です」

寝室の鍵を開けたLに月が呟く。

「・・・、会議じゃなきゃ何をするつもりだったんだ」

「秘密です」

わざわざ振り返って丁寧に答えると、月は額に手を当て呆れたように溜息を吐いていた。


あの両手がもし私の頭部を抱えた時、彼が傷つかずにすむ方法はないものだろうか?

死を迎える恐怖より、残される恐怖。


願わくば、紅い血の流れない結末を・・・。








 
 

2004/07/18

 
     
 

10日ぶりの新作。
また、Lだ。
月からキスをするのは初めてなんだよ〜(笑)

 
     
   
     
 

 

 
 
     
 

 

 
 
     
     
     
     
     
     
     

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