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指先 |
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どちらともなく手を繋いだら、放したくなくなってしまった。 この手を放したら、また、僕のことを忘れてしまうだろう。 「竜崎の手は冷たいね」 チャリチャリと二人の手首を繋ぐ手錠の鎖が金属音を立てる。 月はソファに寝そべって、分厚い百科事典のようなものを読んでいた。 Lはいつものように膝を立てて床に座り、ノートパソコンを睨んでいた。 「手を放してはもらえませんか」 振り返ることもせず、月に背を向けたままLが言う。 冷たいのは指先だけじゃないと、月は思う。 「どうして?」 月は百科事典から目を離し、Lの背中を見た。 理由など聞かずともわかっている。 Lはパソコンのキーボードを打ちたいのだ。 「夜神くんのわがままに付き合うのは大変です」 淡々とした口調のLはチョコレイトを一つ口に頬張った。 理由としてはまずまずの返答に月は微かに笑う。 「僕はわがままかな?」 ゆっくりと上体を起こすと鎖がまたチャリチャリと音を立てた。 Lの手が月の方へと引き寄せられる。 「たまに」 鎖で繋がれて、今は手までを繋いでいるというのに、どうしてこんなにも遠く感じるのだろうか。 月は、えもいわれぬ索漠感に襲われ続けていた。 サビシイサビシイサビシイサビシイサビシイ。 「これを放して欲しい?」 握った手に力を込めて、月はLの隣りに座った。 「そうしていただけるのであればありがたいです」 Lはそこでようやく月の方を見た。 真っ黒で大きな瞳に自分の姿が映るのを月は間近で確認することができる。 (こんなに近くにいるのに) (僕ではない僕を探している) それがわかってしまう自分の聡明さが今はとても嫌いだった。 「じゃあ、キスして?」 冗談めかして笑ったら、Lは躊躇いもせずに頬に唇を寄せた。 「手を放していただけますか?」 その行動が更に月を傷つける。 (本当に・・・) 深い深い溜息をついて、月はLから手を放した。 今まであった温もりが一瞬にして消え去ることもまた、寂しさを募らせる。 「本当につまらない」 小さく呟くと月は再びソファに戻り、百科事典のようなものを開いた。 (僕だって目の前にいるのに) 一度だって見てくれたことなどない。 そんな月の気持ちを知ってか知らずか、Lはキーボードを両手で叩き、メールの送信を始めた。 指先にはまだLの感触が残っている。 月は繋いでいた手を握り締めた。 終 |
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2005/1/10 |
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新年一発目からブルーのどん底に突き落としてごめんなさい。 |
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