感傷

 
     
  桜の花弁が、舞い落ちる頃。
視界が全て桜色で塞がれる。

何も見えない。
何も聞こえない。

一人で淡い桜色の海に飲み込まれ、前後不覚に陥る。

誰か、の気配がした。


目覚めた時は、薄暗い部屋の天井が映る。

夢を見ていた。


「桜を見ると思い出すことがあるんだ」

高層ビルの上階から窓の外を見下ろすと、ビルとビルの間から僅かに桜色がある。
月は、はっきりとその姿を現さない桜の木を思い描き、目を閉じた。

「何を、ですか?」

存在する筈の無い者の声が耳元に聞こえ、月は拳を握る。
それは、逃げ出したくなる程の動揺を堪える為に必要なことだった。

「聞きたい?」

硝子の向こうに広がる雲ひとつ無い空へと行く当てのない問いを投げかける。

「はい」

月は呆れたように口元を歪めたが、振り向かなかった。
その必要は無い。

「僕らが初めて直接出会った日も桜が満開だったことを」

声、は、もう聞こえない。

「思い出すんだ・・・」

生きている間はずっと、抱えていかなければならい『過去の遺物』に月は耐えることのできる強さを望んだ。

(オマエニハモウヨウハナイ)

心を閉ざし、暗闇の中で唯一人。
永遠に自分自身と戦い続ける道を選択したことを月は、後悔していない。

夢を見ただけだ。

そう、

アレハスベテユメダッタノダ。


桜の咲く時期は短い。
花が散るように、想いも一緒に風に吹き飛んでいつかは消える。


月は、ゆっくりと振り返った。

「月くんは、弱いですね」

耳元を掠めるように風が通り過ぎ、心に傷を残していく。

「だから、強くなるんだ」

誰もいない空間へ、月は鮮やかな微笑を向けた。


桜は散り落ち、声は、二度と聞こえない。









 
 

2005/04/09

 
     
 

い、痛い話で・・・。
思いついたからってすぐに書いてしまう自分をどうかしたい。

 
     
   
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

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