証拠

 
     
 

「落としましたよ」

月が小脇に抱えていた参考書から一枚のメモが落ちた。

「ありがとう」

後ろを歩いていたLがそれを拾い、月に渡す。

「まだ私をLだと信じてもらえませんか?」

メモに触れた月の視線をとらえ、Lは切り出した。
入学式で名乗ったが、月はにわかに信じられないと否定していた。

「じゃあ、流河は僕が自らキラだと言ったら100パーセント信じるのか?」

月はにっこりと笑って、Lからメモを取り上げる。

「可能性のパーセントは上がりますが、100パーセントにはなりません」

書いてあったのは、物理の公式だった。落としてなくしたとしても問題はないものだ。

「どうして?」

月はメモを参考書の間にはさみ、また抱えなおした。

「証拠がないですから」

疑いをかけている相手だからといって、自らがキラだと名乗ったとしてもそれだけで逮捕することはできない。推理やプロファイリングでキラだとわかったとしても捕まえる為には、キラだという確固たる証拠が必要である。
それを一番理解しているのは、月本人だ。

「同じだよ」

今、自分がキラだと言っても信じてはもらえない。
目の前のLをLだと信じられないと同様に。

「流河がLであるという証拠がない」
「それはその通りです」

どれだけの事を瞬時に頭の中で構築しているのか。
月の返事や反応は、的確で早い。
だからこそ、Lは月を疑わずにはいられないのだ。
今までのキラの犯行手口を何度も繰り返し確認してきた。
その中で浮かび上がった、夜神月という人物を無視することはできない。

「近いうちに、証拠はお見せできると思います」

自分がLであることさえ、月に信じさせることができたら。

「へえ?」

後は、月がキラでない事を探せばいい。
5パーセントの確率に勝負をかけたのは、手がかりのない中で怪しい者を全て疑い、確かめていくという方法しかないからだ。
夜神月がキラでないことさえわかれば、自分の中でひっかかっている何かがひとつ消え去るに違いない。それだけでも十分収穫だといえる。
月のあまりにも完璧すぎるが故の怪しさだけは、情報だけではどうしても拭い去ることができなかった。
この数日、行動をともにして気がついたのは、夜神月が思っていた以上に完璧な優等生だということだ。
それこそ、抱いていた怪しさや疑いが増すほどに、月がキラである確率が上がっていく。
人懐こい笑顔や穏やかな口調、そして選ぶ言葉。
彼が第三者に対して話す言葉は、どんな相手が聞いても悪い気がしないものばかりだ。
主席入学、新入生代表、その誰もが持つ生真面目な優等生のイメージを爽やかで好感の持てる学生に変えて生活している。
まるで『その役を演じている』ように見えるほど、隙がない。
本当に無意識、もしくは地でそれをやっているのなら、自分の考えを改めざるを得ないが、わざとらしさのないことがかえって疑いを強くする要因となる。

「夜神君、おなかがすいていませんか?」
「ん?流河はなにか食べたいのか?」

月の優しい対応は鬱陶しいほど後ろをついていくLにさえ、変わることはなかった。
嫌な顔ひとつせずに、質問にも要求にも答えようとするのは、やはり性格なのか。

「食堂へ行きませんか?」

万人に対して平等の応対ができる人間など、いない。
表に見える優しさが、一番嘘臭く信用できないこともある。

「いいよ」

直接話すようになって、まだ数日だ。
本来なら数十分も話せば、その相手のある程度のことがわかるはずだった。
月に関しては、その上辺だけの判断では何かが足りなかった。受ける印象は同じだが、どうしても『嘘』っぽいものが残る。
それはこれから確かめるべきものだ。
その為に、同じ大学に入ったのだから。
ただ、時間がない。
どこかで攻撃をしかけなければ、この完璧なまでの月を崩すことはできないだろう。
問題は、そのタイミングだ。

「あそこのケーキがおいしいですよ」

相手の興味を引きつつ、一定の関係を保たなければならない。

「流河は本当に甘いものが好きだよな」
「私は甘いものがないとだめなのです。うまく頭が働かないのです」

月の性格を利用して、しつこいほど追いかける。
キラの捜査を独自で行っている以上、Lと名乗った自分との関係を断つことはしないだろう。彼の最終目的は捜査本部への接触に違いないからだ。

「もう、中毒だね」
「夜神君は甘いものは食べませんか?」
「ショートケーキくらいなら食べるよ」
「じゃあ、一緒に食べませんか?」
「学食のケーキを?流河と?」
「はい」
「それは遠慮しておくよ」

さすがに男二人で学食のケーキを食べるという図は、月には受け入れがたいものだったらしい。困ったように、断る月にLはさらに続けた。

「おごりますよ?」
「そうゆう問題じゃないから」
「おいしいんですよ?」
「それはわかったから」

月はしつこいLに呆れつつ、学食の入口で珈琲の食券を買った。
まだ納得できない様子のLは、ケーキセットを選んだ。





 
 

2004/06/07

 
     
 

なんだかまだ迷ってる。
書き方がわからないのかも。

 
     
   
     
 

 

 
 
     
 

 

 
 
     
     
     
     
     
     
     

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