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抱擁 |
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「抱きしめてもいいですか?」 両腕を伸ばし、背中から包み込むように抱きしめる。 伝わる体温は心地好く、聞こえる鼓動は少しずつ速くなる。 「無意味な許可申請だな」 抵抗することも無く、ただ抱きしめられたまま月が息を吐く。 「合図の代替です」 「・・・」 「何の前触れも無く抱きしめたら殴られてしまいますから」 「学習の成果?それとも嫌味か?」 「向上心は常に保つべきです」 「周到だな」 「月くんの側に居る為の必要最低限な心得です」 「僕はそんなに難しいかな」 「そうですね」 肩口に頬を寄せ、Lは目を閉じた。 このままこの人の意識を自分のものだけに出来ればいいと願う。 「でも、それが月くんです」 「・・・。褒められた気がしないな」 月から、深い深い溜息が漏れた。 (どうしてこの人は私のものではないのだろうか) 襟元から見える色白い首筋に口唇を寄せた。 「それで、僕はいつまで我慢していればいいのかな?」 触れた口唇がくすぐったかったのか、月が肩を竦める。 「私が飽きるまで」 「そんなに待てないよ」 月が小さく笑って、するりとLの腕から逃げていく。 「抱きしめあうにはまだ季節が早いよ、竜崎」 振り返った月と向かい合わせになる。 鋭くも優しい視線を向けられて、Lは言葉を失った。 「おやすみ」 月が穏やかな笑顔を残して去っていく。 「おやすみ、なさい」 追いかけられなかったのは。 抱きしめられなかったのは。 胸の痛くなるような拒絶だった。 「それでも、私は、私には・・・」 ひとり残された部屋で、Lの呟いた言葉は、溶けて消えた。 あなたが必要なのだ、と。 閉じられた扉に叫びたかった。 終 |
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2006/05/09 |
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Lに月を抱きしめて欲しかっただけです。 |
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