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いってらっしゃい |
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毎朝、食事を取る習慣ができたのは、一緒に暮らすようになってからだ。 Lよりも1時間早く起きるライトが、朝は食欲の無いLの為に工夫を凝らした朝食を作る。 「のこすなよ。せっかくつくったのに」 細かく刻んだ野菜がたくさん入ったスープ。 食べやすいように一口サイズにつくられたサンドイッチ。 テーブルに並ぶそれらをLが残さないように、駄目押しの一言もライトは忘れない。 「いただきます」 自分の為に試行錯誤してくれていることに不満など無く、むしろ感謝しながら、Lは毎朝残さず朝食を食べた。 そして必ず朝食はライトも一緒に食べる。 食事は一人ではしないというのが、約束のひとつだった。 「おいしいです」 Lがほめると、ライトは少し照れたように笑って、ありがとうと言う。 その表情が見たくて、Lは毎日同じことを繰り返す。 一緒に暮らすことが少しでもライトの負担にならないように。 仕事の関係上、仕方がないとはいえ、家事をすべて任せきりにしているのだ。 毎日繰り返すことが苦痛にならないように。 Lはできる限りライトを甘やかした。 今までできなかったことを取り戻すかのように。 それでも。 ライトがLのことを考えているよりも足りない自覚はある。 野菜スープは、本当においしかった。 「ごちそうさまでした」 一緒に食べ終わると、ライトがLの出かける仕度をする。 ネクタイに背広に鞄。 その間にLは歯を磨き、Yシャツのボタンを上までとめた。 息苦しさには、いつまでも慣れることがない。 それを知っているのか、ライトはいつもゆるめにLのネクタイを締める。 Lはネクタイを締めることができないわけではないのだが、不器用なため、ライトに締めてもらったほうが早いのだ。 「はい、できたよ」 それに、Lはライトにネクタイを締めてもらうわずかな時間がとても好きだった。 「ありがとうございます」 礼を言うと、ライトが目を合わせて笑う。 同じ朝を何度過ごしても、この幸せは変わらない。 Lは靴をはくと、ライトから鞄を受け取る。 「いってきます」 「いってらっしゃい」 いつもと同じ時間に、いつもと同じことを繰り返す。 それは、まるで儀式のようで、大切だった。 今日も一緒にいることができた。 ただ、それだけのことが、なによりも幸せだった。 終 |
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2005/12/14 |
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団地妻で10のお題。 |
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