あるところにお城がありました。
お城の主人はライト様と呼ばれる女王です。
性別はまぎれもない男ですが、何故か女王と呼ばれています。
性格が女王様だからなのかもしれません。
その女王ライト様は美しい人でした。
外見だけは、誰もが言葉を失って見惚れるほど美しかったのです。
ところがこの女王ライト様は、その美しい容姿以外に褒められるところがひとつもありません。
趣味は目も当てられないほどダサく、素敵なお城の内装は言葉を失うほどダサい装飾でいっぱいなのです。
ライト様のワードローブには今日もまたダサいドレスが増えていきます。
蝉の声が国中を響かせる頃。
窓にかけた風鈴を鳴らす風もない、暑い暑い日のことでした。
「ライトくん、こんなに冷房のきいた部屋にばかりいると病気になりますよ?」
室温20度だと思われるライト様の部屋は、最新型のエアコンが3台、フル稼働しています。
女王ライト様に唯一意見の出来る男Lは、真夏でも長袖のTシャツ姿で現れました。
「こっちに来るなよ。見てるだけで暑苦しいんだから」
ライト様はここ数日、広いベッドに寝転がり、世界中から取り寄せた本を読みふけっています。
8月に入ってからのとんでもない暑さに耐えられず、冷え切った部屋から一歩も出る気がありません。
「誰かに八つ当たりするよりマシですが」
「じゃあ、八つ当たりされないようにさっさと出て行けよ」
ライト様に睨まれても気にせず、Lはベッドに近付きます。
ちょうど、柱にかかっていた振り子時計が午後7時を告げました。
鐘の音が部屋中に鳴り響きます。
「運動不足に血行不良。これ以上ライトくんに不健康な生活をさせるわけにはいきません」
「お前がそれを言うのか?僕以上に不健康な顔色しているくせに」
ライト様はベッドの傍らに立つLを一瞥し、再び読みかけの本に視線を戻しました。
その一瞬の隙を突いて、Lはライト様を抱き上げました。
女の子があこがれるお姫様抱っこをされて、ライト様の動きが止まりました。
もちろんライト様があこがれていたわけではありません。
「え、L?!」
目をまんまるくしたライト様は落とされないようにLの肩を掴みます。
「暴れないでください。本当に落としてしまうかもしれません」
「だ、だったら、早く下ろせ」
「ダメです」
「ふざけるなっ!」
「ちょっと黙っていてください」
Lは怒鳴るライト様の頬にキスをして、部屋から出てゆきます。
お城の中はライト様のわがままで、全て空調が完備されています。どこにいっても快適な温度が保たれているのです。
ライト様はLにしがみつくようにして顔を隠しています。
誰かとすれ違ったりしたら恥ずかしいからです。
暴れて怒鳴って何とか下ろさせる方法があるはずなのですが、何故かそれが出来ません。
Lは階段を上り、とうとう屋上に出ました。
昼間の暑さとはうってかわり、涼しい風が髪を揺らします。
それでも城内よりも蒸し暑いのには変わりません。
Lは屋上に用意されたベンチにライト様を下ろしました。
「こんなところに連れてきて何をするつもりだよ」
「安心してください。なにもしません」
ワタリに用意させた冷たいコーラの入ったグラスをライト様に渡し、Lはその隣りに座りました。
日は暮れて、宵闇が眼下の町を包みます。
「ほら、見てください」
Lが指差した方向に鮮やかな大輪の花が開きました。
間をおかずに体に響く振動と共に低い爆発音が届きました。
花火です。
「花火大会だそうですよ。河川敷で」
青、緑、黄、白、紫。
次々と咲いては消えていきます。
「本当は間近で見せたいとも思いましたが、ライトくんをつれて町に行ったら、民衆の混乱を招くといけませんので」
「・・・」
「それに、二人きりで見たかったので」
ライト様はLから慌てて目を逸らしました。
ちょうど赤い花火がはじけて、頬の色は誤魔化せたように思えます。
「・・・卑怯者」
ライト様がポツリと呟いた声は、花火の音に掻き消されました。
おしまい。
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