双子月 キラ編 壱

 
     
 




「朝だよ、早く起きろよ」
午前7時、元気のいい声が頭の上から響くように落ちてくる。
「うるさいな、今日は日曜だろ。もう少し寝かせてくれてもいいじゃないか」
そう言って、キラは布団を頭から被った。
「ダメだよ。今日は竜崎が来るんだから」
ライトは布団を無理矢理引き剥がすと、床に投げ捨て、カーテンを開けた。「それはお前の都合じゃないか。僕まで巻き込むなよ」
キラは落ちた布団を引き上げて、もう一度頭から被り直す。
晴天の太陽のあまりの眩しさに目がくらんだが、それは見逃さなかった。
ライトは本当に窓から差し込む陽光がよく似合うのだ。
「キーラーッ!」
自分とは本当に似ていない。
キラはつくづくそう思った。
そんなキラとライトは、外見だけはそっくりな双子だった。
性格は似ているようで、全く異なった二人は、都内の大学に通う学生である。
「うるさいな。竜崎の相手はお前一人で充分だよ」
怒鳴るライトにキラは布団の中からやる気のない声を出す。
納得いかないライトの気配を察知してか、
ごそごそと片手を持ち上げ、しっしっと追い払うように振った。
こうなったら梃子でも動かないキラを誰よりも良く知っているライトは、早々に諦めて溜息を吐く。
「竜崎は、僕じゃダメなんだよ」
ぽつり、と呟いてライトは部屋を出て行った。
竜崎というのは、職業不明の自称探偵である。
刑事局長の父親の伝で、二人の家庭教師をしていたのだ。
大学に合格してからも、竜崎は夜神家にちょくちょくやってきた。
表向きは、父親の仕事に関する用事ではあったが、
忙しい父親の代わりに相手をするのはライトやキラの役目だった。
「・・・、面倒くさいなあ」
キラは上体を起こし、大きな欠伸をした。
家庭教師をする前から、竜崎は度々夜神家を訪れていた。
自分達と大して年の変わらぬ男が父親の仕事を手伝っていることに、羨望の眼差しを送っていたのは、ライトだけだった。
初めて出会った時から、キラは竜崎という男が気に入らなかった。
父親の手前、態度にこそ表すことはなかったが、とにかく竜崎と関わることを極端に避け続けていた。
感情のわからない表情も胡散臭い外見も他人を見透かすような視線も何もかもが、好きになれなかった。
素直で純粋なライトが、その竜崎を気に入っている事も気に入らない要因だった。
「何であんなヤツがいいんだろう」
キラはライトが開けたカーテンを閉め、パジャマを脱いだ。
竜崎は嫌いだが、ライトのことは嫌いじゃないというのが、キラの目下の悩みである。






 
 

2005/04/03

 
     
   
     
   
     
 

 

 
 
     
     
     
     
     
     
     
     

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