窓際の席で、Lは黒板ではなく月を見ていた。
耳に届く教授の講義は、間違った方向に解釈をしたまま無駄な研究を続けているというほかに言いようのないほど、理解不能なものだった。
もちろん、Lがそう思うということは、月もまた同様に感じているに違いない。
黒板を眺める月は、あからさまに退屈そうな表情をしていた。
これが必須科目でさえなければ、誰よりも早く席を立ち、出て行っただろう。
そんな苛立ちが見て取れる。
小さくあくびしながら窓の外へと視線を向けた月と目が合った。
月は困ったような訴えるようなそんな目をして頬杖を付いた。
Lが無意識に伸ばした手を避けて、苦笑いを浮かべる。
月との距離は縮まるどころかどんどん離れていくようで、もどかしい。
手を伸ばさずとも触れることができる程、こんなに近くにいるというのに。
間を隔てる壁が、日毎厚くなっていく。

終業のベルが鳴り、教授が姿を消すと、無駄な時間を過した、と月が溜息を吐いた。
学生たちが早々に去っていく講義室を最後に出た月が、もう一度溜息を吐く。

「なんか納得いかないんだ。流河は、さっき教授が説明していた・・・」

私語厳禁の時間を終え、月は溜め込んだ不快感を露にする。
とめどなく溢れる正論に、Lは感心しながら頷いた。

「私もそこは疑問に思いました」

意味のない講義を真剣に聞いていたわけでもないが、間違っている部分というのは嫌でも耳につき、気になるものである。
月の指摘は、もれなくそこを追及していた。

「やっぱりそうだよな」

自分の意見に賛同されて、月は嬉しそうに笑う。
本当は、他者の同意など必要とせずに、一人で答えを探し出し、解決するほうが容易いはずである。
わざわざそれを口に出して訊いてはいるものの、たまたま隣りに同レベルに値する人間が居た為に、意見を聞いてみただけに過ぎない。
ここで月の意見をLが否定したとしても、正しい理屈で覆せる力があるのだ。
それ以外にも、Lと名乗ったことによって、月はそれ相応の知識や能力を求めている。
自分が月を観察しているように、月もLとして認められるかどうかを見極めようとしているのだろう。

「夜神くん」

教授の理論がどうしても腑に落ちなくて気になるからと、図書室に向かおうとする月を呼び止めた。

「何?」

上辺だけの友人関係が築かれ始めているだけの、今の状態を由とすることはできない。
欲しいものは、信頼や友情ではなく、もっと違うものだ。

「今度二人きりになることがあれば、私が膝枕をします」

唐突なLの言葉に、月の顔がほんの少し赤くなった。
照れを隠すように微笑んだ月は、遠慮しておくよと答えて、Lに背を向けた。

じわじわと侵食するように生まれてくる感情をなんと呼べばいいのか。

(その身体を抱き締めたら、答えがわかるでしょうか?)

真っ直ぐに伸びた姿勢のいい背中を見送って、Lは握りしめた手に力を込めた。













 
 

2005/01/27

 
     
 

気まぐれに続く

 
     
 

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